海外向け多言語ウェブサイトのCMSを選ぶ7+1のポイント
一定以上の規模のウェブサイトを制作するときに、コンテンツ管理システム(CMS)を導入することがほとんどだと思います。
ウェブサイトの制作やその後の運用で重要な役割りを持つCMSですが、日本語だけでなく複数の言語のサイトを管理することを想定したときに、どのようなCMSを選定するべきでしょうか。
この記事では、海外向け・多言語ウェブサイトのCMSについて、いくつかポイントになる点をお伝えします。
アイ・ディーエーへのご相談・お見積り依頼は下記のリンクから承っています。
海外向け多言語ウェブサイト制作の見積り・不明点等を相談する
多言語に対応していないCMSはない!?
多言語サイトを制作するには多言語に対応したCMSを選定することになるわけですが、何をもって「多言語に対応」しているかという点には意外と幅があります。
実は、多言語の文字を表示するだけであれば、ほとんどのCMSが多言語に対応しています。特定の言語にしか対応していないCMSを見つける方が難しいかもしれません。
多言語を表示するだけならUTF-8に対応していればOK
現在では、WindowsやiOSなど主要なOSはUTF-8という多言語文字コードが標準になっています。
Webサーバなどのサーバソフトウェアについても同様ですので、その上で動作するCMSについてもUTF-8に対応しており、文字化け等を起こすことなく多言語の文字を表示することができるようになっています。
もし多言語の表示に問題がでるとしたら、CMSの問題というよりも、文字コード関連の処理や設定の問題である可能性が高いです。
では、多言語対応CMSのポイントはどこにある?
文字の表示に問題がないとすると、どういった点が重要になるでしょうか。それは、多言語のウェブサイトを制作・運営するときの実践的な部分に関連するポイントになっています。
多言語CMSを選ぶ時のポイント
多言語CMSを選ぶ時のポイントを8つのポイントにまとめてみました。自動翻訳・機械翻訳に関する点についても触れていいますので参考にしていただけると幸いです。
1. 言語ごとにサイト構造とコンテンツを柔軟に変更できること
ここでいうサイト構造とは、サイト内のページの階層構造(ページツリー)とページの数のことを指しています。
例えば日本語サイトと全く同じページツリーで英語サイトを制作する場合、日英のサイト構造は完全に一致していることになります。ですが実際には
- 英語サイトでは、海外展開する製品・サービスを中心に構成したい
- 採用情報や日本向けのコンテンツは英語サイトには必要ない
といったように「日本語だけに存在するページ」「英語にだけ存在するページ」などが出てくることが自然です。
日英のサイトは100ページ規模だが、簡体字サイトは10ページのダイジェスト版、ということもあり得ますので、CMSには言語によって全く異なるサイト構造にできることが求められます。
ページの内容も言語によって変わる
ページの有無だけでなく、ページの内容も言語によって変えたい、ということも当然よくあります。
例えばターゲットとする国や地域に応じてトップページに掲載する製品やサービス情報を変えたり、サポート提供体制に応じてサポートに関する情報を変更したり、と言った変更です。
言語によってデザイン自体を変えることは実際にはあまりありませんが、CMSとしては「やろうと思えばそれも可能」というくらいの柔軟さがあることが望ましいです。
サイト構造に柔軟性がないCMSの例
例えば製品ページを表示するために「製品名」「製品特長」「製品画像」という3つのフィールドで管理するシンプルなCMSを考えてみます。日本語のみの状態だと、CMSの編集画面は下記のような入力フィールドになります。
3つの項目を設定して「保存」すれば、その製品ページが作成できる仕組みです。
このCMSを英語に対応させるときに、単純に英語用の入力フィールドを設けるような設計のCMSだった場合、どうなるでしょうか。
その場合の編集画面は下記のような入力フィールドになります。
一見するとこの仕組みで問題なく英語に対応できているように思えますが、この仕組みには多くの問題があり、「サイト構造が柔軟ではない」典型的な例になっています。
コンテンツ的な問題
この方法では、英語は日本語と同じ項目のページにしかならないため、「英語ページではカタログダウンロードのURLを追加したい」といった要望に応えられません。上記の例では、製品画像を日本語と英語で共用する設計のため、英語サイトでは海外仕様の製品写真を掲載したい、ということも難しくなっています。
サイト管理的な問題
日英の内容が1つの編集画面になっているため、「英語だけ存在するページ」「日本語だけ存在するページ」を実現しにくく、できたとしてもどのページがそうなっているか把握しにくい仕組みになってしまいます。
現実にはここまで単純な編集画面ではなく、もっと多くの編集項目が必要になります。それらをこの方法で対応言語を3言語、5言語と増やしていくと、編集画面の項目が増えすぎてとても操作性が悪くなることが容易に想像できます。
開発・コスト的な問題
英語のページをカスタマイズしようとしても日本語の編集画面にも影響するため、改修の手間や費用もかかりやすい仕組みになることが多いです。
サイト構造が柔軟なCMSの例
ではサイト構造が柔軟にとれる例を見てみましょう。同じような製品ページを管理するCMSで、編集画面が下記のようになっているものを考えてみます。
ポイントは、日本語と英語でそれぞれ独立した編集画面を持っていることです。
一般的にどのCMSもページを管理する根本的な仕組みを持っているため、その根本レベルで多言語の対応をしているかどうかが重要になります。上記の例では、英語ページには「SNS用の画像」が存在し、日本語ページには「導入事例」に関する項目が設定できるようになっています。
入力可能な項目を全て表示しておく、という考え方もありますが、言語によって表示内容が変わるのであれば、編集画面もそれに合わせてあるほうが編集画面が使いやすくなります。
2. 各言語ページのつながりがシステム化されていることが重要
「CMSの根本レベルで対応していればよいということであれば、そもそも言語の区別なくCMSに登録すればよいのでは」という疑問を持たれるかもしれません。
ある意味その通りではあるのですが、それは「CMSに多言語に関する機能を求めない」ということと同じ意味になってしまいます。
CMSで多言語のサイトを管理する上では
- どのページが何語のページであるか
- どのページがどのページの翻訳であるか
という情報をシステムとして管理できていることが重要です。
例えば、検索エンジンにそのページの言語と代替言語を伝える hreflang という仕様を実装する際にも上記の2点は必ず必要になりますし、サイト内検索で検索対象のページの言語を限定するような処理でも上記の情報が必要になります。
上記の基本的な部分がシステム化されているかによって、CMSをカスタマイズする工数も大きく変わってくるため、コストへの影響も大きくなります。
3. 様々なURL構造に対応できること
3つ目のポイントはURL構造です。URL構造とは、URLのどの部分で言語の違いを区別するかということで、検索エンジンにページの言語やターゲット地域を伝える、SEO的にも重要なポイントです。
例えば www.example.jp というサイトにドイツ語(DE)サイトを追加する場合に下記のようなURLが考えられます。CMSの仕様上こうしたURL構造に柔軟に対応できることが望ましいです。
de.example.jp
de.example.com
www.example.jp/de/
www.example.com/de/
上記のうち、緑の文字がGoogleが推奨しているURL構造、赤文字が非推奨としているものです。それぞれのURL構造の意味やメリット・デメリットについては下記の記事で詳しく触れていますので参考にしてください
4. 言語を追加するときのコストが低いこと
多言語サイトを扱うCMSでは、対応言語を追加するときのことも考慮しておいたほうがよいと思います。言語の追加はそれほど頻繁にあることではありませんが、いざ必要になったときに
- 大きな工数が必要になるということが判明する
- 言語の追加によって操作性や使い勝手が大きく損なわれる
ということがないよう事前に確認しておきたいポイントです。
サイト構造のところで例に挙げたように、言語数を増やしていくと編集画面が破綻するうえに改修コストも大きいCMSは、多言語ウェブサイトには向いていないと思います。
一方、システムの根本レベルで多言語対応しているCMSでは、言語の追加が容易に行えるよう設計されています。
5. 使いにくいCMSでは意味がない
- サイト構造を柔軟に変更できること
- 様々なURL構造に対応できること
- 言語を追加しやすいこと
これまで上げてきた上記のポイントを検討すると、結局「多機能な商用CMSがよいのでは」という結論になりがちですが、多機能でカスタマイズできる幅が多いCMSが多言語ウェブサイトに向いている、というわけでもありません。
ウェブサイトの更新で日々使用するCMSには、やはり使いやすいものが一番だと思います。CMS導入の目的はサイトの更新管理を効率化してサイトの価値を高めることにありますので、「CMSを導入したが、結果あまり使われなかった」ということになっては意味がありません。
「どういうCMSが使いやすいか」ということは主観が入るので一般化しにくいですが、多言語ウェブサイトを管理するCMSとしては先にも挙げた
- そのページが何語のページか
- そのページの別言語版はどのページか
ということが直感的に把握できて操作がシンプルなもの、ということが言えるのではないかと思います。
6. 言語ごとにCMSを用意することはNG?
いま日本語サイトで使っているCMSは多言語対応が難しいが使いやすいので、これをコピーして英語サイト向けに構築してはどうか
というご相談をいただくこともあり、この方法も多言語ウェブサイト管理の手段のひとつとして有効だと思います。実際のこの構成で運用されているお客様もいらっしゃいます。
ただ、やはりいくつか注意点がありますので、それらについてはご検討いただくことをお勧めしています。
- 管理画面が2つ存在することになるため、それぞれの管理画面にログインして作業を行うことになる
- 別々のシステムになるため、ページ間の言語のつながりをシステムで管理することができない
- そのため、ページの別言語版を検索エンジンに伝える hreflang は手動で管理することになる
- 別々のシステムになるため、セキュリティアップデート等のメンテナンスコストが2重に必要になる
7. CMS管理画面の言語対応もポイント
これは細かいポイントなのですが、「海外の現地法人から直接更新できるようにしたい」という要望がある場合は、CMS管理画面の表示言語を変更できる必要があります。
商用やオープンソースではなくスクラッチで開発されているCMSの場合、「管理画面を日本語から変更できない」という場合がありますので確認が必要になるかもしれません。
オープンソースのCMSの場合は、海外で開発運用されているものが大半ですので、少なくとも「管理画面を英語に変更できない」という心配はありません。現地語に対応していなくても、英語に対応していれば多くの場合問題にはならないと思います。
CMSは使わず、自動翻訳や機械翻訳を使うという選択肢
自動翻訳ツールを使って翻訳してしまえば、CMSの多言語対応は気にしなくてよいのでは?
という方法を検討される場合も多いと思います。ページの上部にGoogle翻訳のプルダウンがあり、言語を切り替えると自動翻訳される、というような方法であれば確かにCMSが多言語対応している必要はありません。単純な自動翻訳ではなく、機械翻訳と人の翻訳をハイブリッドで適用できるようなシステムも存在します。
ですがこれらの方法は問題のある部分が多く、あまりお勧めはしていません。
言語ごとのURLを持たず、ブラウザ上のテキストを翻訳するシステムはNG
Google翻訳等を使って、ブラウザに表示されたページを翻訳する仕組みには下記の問題があります。
この方法で翻訳したページは検索エンジンの検索対象にならない
検索エンジンはURL単位でページを認識しますので、同一URLのままテキストだけを別言語に置き換えてもそれらは検索エンジンにインデックスされません。検索エンジンからの流入を少しでも期待するサイトであれば、避けるのが賢明だと思います。
言語ごとのURLを持てる場合も、Google非推奨の問題が多い
クエリパラメータや仮想URLで言語ごとにURLを持てるシステムの場合でも、下記のような問題があります。
サイト構造、URL構造、コンテンツ、いずれも柔軟性に欠ける
原文の日本語と同じ構成の翻訳ページとなるため、「英語サイトにだけ存在するページ」や「中国語で一部内容を変更したい」という対応が取れません。ユーザ目線でコンテンツをアレンジしようとすると、システム的な制約に直面することになってしまいます。
URL構造もシステムの仕様に依存するため、自由に設定できない場合が多いです。Googleではクエリパラメータで言語を指定する方法は非推奨になっていますので、その仕様しかとれないシステムはあまりお勧めできません。
自動翻訳を検索エンジンにインデックスさせるのはNG
実はGoogleの公式ガイドによると、自動翻訳を検索エンジンの検索対象とすることは推奨されていません。Googleが上級者向けSEOとして公開している「多地域、多言語のサイトの管理」には下記のように記述されています。
robots.txt を使用して、自動翻訳したサイトページが検索エンジンからクロールされないようにしてください。自動翻訳は意味が通じない場合があるため、スパムとみなされる可能性があります。さらに重要なこととして、読みにくく不自然な翻訳はサイトのイメージ低下につながるおそれがあります。
サイトの価値を高めるためのコンテンツには自動翻訳は使わず、サイトの価値には直接関係のない大量のテキスト(ECサイトの商品レビュー等)などに使う、というように翻訳手法の使い分けが重要だと思います。
海外向けサイト、多言語サイトに向いたCMSとは?
これまでご紹介したようなポイントを踏まえて、どのようなCMSを選択するのがよいでしょうか。アイ・ディー・エーでは主に3つのパターンで提案させていただくことが多いです。
- WordPress+多言語対応プラグイン
- 主に欧州で利用されている複数ドメインに対応したオープンソースCMS
- 北米で開発されている軽量多言語CMS
全てを満たす満点のCMSは存在しない
CMSの選定には多言語対応以外にも様々な要件が関係しますので、多言語対応だけを考えて選定するわけにはいきません。更新ワークフローやCMSユーザの権限管理といったマネジメント部分から、HTML編集をどこまで行うかという細かい使い勝手の部分まで、要件や仕様の検討ポイントは多くありますので、それらをすべて過不足なく満たすことは難しい場合もあります。
仕様面で要望を満たすCMSがあったとしても、システムアップデートが止まっていたり、開発者の数が少ないため長期の運用に不安がある、ということが問題になる場合もあります。
WordPressなどの広く使われているオープンソースCMSはそうした問題はありませんが、代わりにセキュリティ面の不安があります。Wordpressだけで実装するのではなく、静的配信の仕組みやCDNを導入してCMSに直接アクセスされないような構成でリスクを低減する方法などもご提案しています。
8. 翻訳管理(TMS)が組み込まれたCMSという選択肢
ウェブサイトは継続して更新していくものですので、海外向けや多言語サイトのCMSとしては、コンテンツを翻訳することの負荷がなるべく少ないことが重要です。これは単にCMSの使い勝手のことだけではありません。我々のような翻訳会社が使用する翻訳管理システム (Translation Management System = TMS) とお客様のCMSを接続して、ダイレクトに翻訳をCMSに反映するような仕組みも考えられます。
海外向け、多言語のウェブサイトのCMSには多くの選択肢と検討ポイントが存在し、様々な要求事項をどのレベルで実現するのがベストかは、ご相談いただくサイトごとに異なってきます。細かなヒアリングを積み重ねて、サイトの多言語化、海外向けウェブサイトの構築に最適なCMSをご提案できればと考えています。
WEBチーム:堤
最新の記事
-
機械翻訳とプロ翻訳を融合した翻訳手法「ポストエディット」の活用方法を解説
-
HTMLマニュアルのメリットとは
-
idaで実装したウェブアクセシビリティ対応例3つ
-
【制作者インタビュー】UI設計とアクセシビリティ対応のポイント:阪神甲子園球場チケット販売サイトリニューアル
-
アクセシビリティ評価ツール miCheckerの使い方
よく読まれている記事
【実践ガイド】海外向け多言語サイトの作り方・制作費用を7つのトピックで解説
台湾と香港の言葉はどのくらい違うの?
Google公式情報に見る海外向けサイトのSEO、多言語サイトのSEOポイント
HTML直接翻訳で多言語サイト制作の手間と費用を大きく削減
海外向け多言語ウェブサイトのCMSを選ぶ7+1のポイント