海外向け多言語サイトのサーバインフラの選び方!中国向けは要注意

WEBチーム:堤
2021.04.21 2023.10.10

海外をターゲットにした外国語ウェブサイトの制作を検討するときに、「サーバをどこに置くか」ということが意外と重要なポイントになることをご存知でしょうか。

日本語のウェブサイトを制作するときには、サーバのスペックや構成を検討することはあっても、物理的な「サーバの場所」についてはあまり意識することはないと思います。ですが、海外向けとなると

  • 日本のサーバに設置したホームページは海外から問題なく閲覧できるのか?
  • 中国からは日本のホームページを閲覧できないと聞いたが本当か?

といったお問い合わせをいただくことも多く、実際にサーバインフラの選定は重要なポイントになっていますので、海外向けウェブサイトのサーバインフラを検討する際に参考となるポイントをまとめてみました。

なお、この記事はあくまで「海外向けのウェブサイト」の場合の検討事項です。外国語のウェブサイトでも「日本国内の外国人向け」に制作する場合は、ターゲットが日本国内ですので日本のサーバインフラで問題ありません。

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海外から日本のホームページを見ることは可能?

結論から言いますと「海外から日本のサーバに設置したウェブサイトを閲覧することはもちろん可能」です。ただし物理的な距離に起因する表示遅延があることを考慮する必要があります。

また、中国については事情が異なる点が多いため、中国向けウェブサイトを検討する際には、他の国とは異なる注意が必要になってきます。

海外から日本のサーバへのアクセスに時間がかかる理由

どうして海外から日本のサーバを閲覧すると表示に遅延がでるのでしょうか。これは逆の場合を考えてみると理解しやすいです。

例えば海外旅行の計画を立てているときに、米国や欧州のホテルや観光施設のウェブサイトを見ていて、ページの表示が遅く感じたことはないでしょうか。南米やアフリカのウェブサイトではより顕著にその傾向があるかもしれません。

これは、物理的な距離やネットワーク回線の状況が通信速度にも影響するためです。日本→海外のサーバへのアクセスに遅延が発生するのと同じように、海外→日本のサーバへのアクセスにも遅延が発生することになります。

アクセスの度にデータが太平洋を往復

例えばニューヨークにいる人が、日本のサーバにあるウェブサイトを閲覧する場合を考えてみます。

アメリカ東海岸から出発した通信が西海岸までアメリカ大陸を横断、海底ケーブルを通って太平洋を横断して日本のサーバにリクエストとして届きます。

そのリクエストに応えるデータがまた逆のルートをたどってアメリカ東海岸まで届きます。

1つのウェブページを表示するために100リクエスト必要だとすると、上記のやりとり100回分の時間が積み重なり、遅延となって現れるわけです。

(実際にはもっとリアルで複雑なネットワークの仕組みが関係します)

実際の遅延速度

ネットワークの影響は個別の環境差が大きいので一概にいうことはできませんが、経験上、日本国内で1秒程度で表示されるウェブページの場合、北米だと2~3秒、欧州だと3~5秒程度の遅延があることが多いようです。

10年くらい前であれば、こうした問題は「そういうもの」として考えられていましたが、近年はそうした点に対応する仕組みも比較的リーズナブルに選ぶことができるようになってきています。

2020年代に海外向け多言語サイトを検討されるのであれば、サーバインフラも検討項目にいれていただくことをお勧めします。

表示速度はSEOにも影響

ページの表示速度は、閲覧するユーザの体感に影響するだけでなく、検索エンジン対策としても重要なポイントになっています。

Googleのスピードアップデートとコアウェブバイタル

2018年の「スピードアップデート」以来、Googleは検索結果のランキングにページの表示速度が影響するようになってきています。これは、同じ内容のページであれば、表示速度が速いほうが検索エンジン対策として有利ということになります。

他にも

  • 「モバイルサイトの読み込みに3秒以上かかると、訪問者の53%が離脱」
  • 「ページの読み込み速度が1秒から5秒に増えると、モバイルサイトの訪問者の直帰率は90%増加」

など、ページの表示速度が訪問ユーザの行動に与える影響をレポートした数字も多く紹介されるようになっており、ユーザビリティの向上という意味合いでもページの表示速度は重要視されています。

これから重要になってくる「コアウェブバイタル」という指標にもページの表示速度が大きく関係するため、今後もこの傾向は続くと思われます。

サーバインフラは根本的な問題

ウェブサイト制作の現場でも、表示速度の最適化の技術や手法は年々重要になってきています。

画像やデータの圧縮、読み込みタイミングを調整してなるべく速く画面表示を完了させる手法など、技術的な対応はどんどん高度化しています。

一方でサーバインフラに起因する表示遅延は、そうした技術的な方法では解決できない根本的な問題になります。

弊社が管理している多言語サイトの中にも「北米向けのサイトは北米のサーバに設置」「中国向けのサイトは中国のサーバに設置」というように、現地からのアクセス速度を考慮して現地のサーバインフラを利用されているお客様もいらっしゃいます。

アクセス遅延を解決するCDN

こうしたネットワーク遅延を解消するための仕組みのひとつがCDN(コンテンツデリバリーネットワーク)です。

CDNでは、世界各地のキャッシュサーバにコンテンツ(ウェブページ)をキャッシュさせ、閲覧するユーザには一番近いキャッシュサーバのデータを配信することで、ネットワークの遅延を解決しています。

先ほどの例でいうと、ニューヨークにいるユーザは、アメリカ東海岸のキャッシュサーバを閲覧することになるので、大陸横断・太平洋横断して日本のサーバを参照する場合とは比較になりません。アメリカ東海岸にサーバを置いているのと同じ効果が得られることになります。

CDNでは世界中に構築したキャッシュサーバのネットワークを利用するため、北米だけでなく欧州や東南アジアをはじめ世界中のアクセスに対応することも可能です。

10年前くらいまでは、CDNは非常に運用コストが高く、グローバルに展開している大企業のウェブサイトを中心に検討されるものでしたが、ここ数年で大きくコストが下がり現在では個人でも利用できるものも出てきています。

ネットワークの専門知識やコスト面など、CDNの導入にはそれなりのハードルは存在し、どの多言語ウェブサイトにもお勧めするものではありませんが、検討する価値は十分にあると思います。

中国向けウェブサイトの検討ポイント

海外向けウェブサイトのサーバインフラについて、「中国については事情が異なる点が多い」という点について詳しくお伝えします。

中国だけサーバインフラの事情が異なる理由

中国ではグレートファイアウォールと呼ばれる大規模なファイアウォールが存在し、中国国内と海外の通信はこの影響を受けて通信速度が遅くなる傾向があるためです。

このため、中国国内から日本を含む海外のウェブサイトを閲覧する際にもページの表示が遅くなります。

影響の度合いは一定ではなく、日よって極端に通信速度が遅くなったり、日本→中国への通信が遅い日でも中国→日本への通信はそれほど速度が落ちない場合もある、というように様々な形の影響があります。

中国国内のサーバを利用

この影響を回避するためには「中国国内のサーバを手配する」という方法があります。

中国国内の通信であればグレートファイアウォールの影響を受けず、物理的にもネットワーク的にも距離が近いため、良好な通信速度が得られます。

中国のレンタルサーバやクラウドサービスを手配し、そこに中国語ウェブサイトを開設することができれば、中国国内からの閲覧には最適な状態といえると思います。

ウェブサイト設置にはICPサイト登録が必要

しかし、中国国内のサーバにウェブサイトを開設する場合、「ICPサイト登録」という届け出を現地で行う必要があることに注意が必要です。

ICPサイト登録は全てのウェブサイトが対象で、法令により定められているため例外はありません。中国国内のサーバに設置されているウェブサイトには、必ずフッターにICPサイト登録番号が掲載されています。

正しく掲載されていなかったり、ICP登録内容に不備があるとサイトが強制的に停止される場合もあるため、非常に重要な手続きになっています。

ICPサイトの登録手続き

ICPサイト登録の手続きに関するポイントをまとめると下記のようになります。

  • 中国現地法人(営業許可証)があること
  • 現地の身分証を持つサイト運営責任者を置くこと
  • サイト運営責任者が直接サーバ会社に出向き、写真撮影を含む手続きを行えること

中国現地に法人がない場合はICPサイト登録を行うことができないため、中国サーバにサイトを設置することはできない、ということになります。

現地法人がある場合でも、ICPサイト登録の手続きに協力が得られない場合は、手続きを進めることが難しいかもしれません。

手続きに必要な期間も2~4週間ほど見込んでおく必要がありますので、事前に検討しておくことが重要です。

中国のネットワークの南北問題

中国の国内ネットワークには「南北問題」といわれる通信遅延の問題が存在します。

これは中国通信事業の2大キャリア「中国電信(チャイナテレコム)」と「中国聯通(チャイナユニコム)」間の通信速度が遅くなるという現象で、例えば上海のサーバに設置したウェブサイトを北京や天津から閲覧すると表示が遅延する、ということが発生します。

この南北問題は20年以上前から存在し、徐々に解消されていると言われていますが、現在でも中国での通信トラブルの際にはこの問題が疑われる等、まだ完全には解消していないようです。

南北問題を回避するキャリアフリーとマルチキャリア対応

この南北問題を回避するには、2大キャリア両方のネットワークに対応しているインフラを選択することが重要です。

中国のレンタルサーバでは「キャリアフリー」や「マルチキャリア対応」といった名称のプランが存在しますので、中国サーバを検討する際にはこの点に留意することをお勧めします。

まとめ:多言語ウェブサイトのサーバインフラ検討

上記のように海外向けウェブサイトのサーバインフラには、日本国内向けの場合とは異なる検討ポイントが存在します。

サーバインフラのコストは固定費になりますし、保守の範囲やCMSの動作要件にも関連しますので、サイト制作のなるべく早い段階で検討することをお勧めしています。

最初のポイントに挙げたように日本のサーバに設置したウェブサイトを海外から閲覧することは可能ですので、サーバインフラにどこまで求めるかは、そのウェブサイトの目的、コスト面、運用面等を検討して判断することになると思います。

アイ・ディ・エーでは翻訳・制作だけでなく、こうしたインフラ面のご相談、ご提案にも対応させていただいています。

多言語サイトのサーバインフラに関してご不明な点やご質問がございましたら、ぜひ一度お問い合わせください。

次回は多言語ウェブサイトの検索エンジン対策(SEO)についてを予定しています。

WEBチーム:堤

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ライターWEBチーム:堤

翻訳会社内の多言語ウェブ制作部門に所属。B2Bサイト・インバウンドサイトなど多くの多言語サイトの制作・運営に携わる。