海外向けウェブサイト制作の4つの重要ポイント

WEBチーム:堤
2021.04.13 2024.05.24

海外向けホームページや多言語でウェブサイトを展開するときに「どういう点を検討すればよいのかわからない」というご相談をいただくことが多くあります。

日本語だけのウェブサイトとは勝手の違う部分も多い海外向け/多言語ウェブサイトについて、はじめに検討しておきたいポイントを4つに整理してご紹介します。

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1. 多言語サイトの目的とゴールを決定する

ウェブサイトの目的とゴールを明確にしておくことは、多言語サイトでも日本語だけのサイトと変わらず重要なポイントです。例えば下記のような項目が考えられます。

  • サイトを多言語で展開する目的
  • 多言語サイトに期待する役割
  • 達成すべきゴール
  • それを数値目標に置き換えてみる

組織によってサイトの目的やゴールは様々に考えられると思いますが、例えば下記のようなポイントから、具体的にどういうサイトとするかのイメージを固めていくことをお勧めしています。

  • 海外取引を増やすため、製品やサービスの情報を多言語で提供し、海外からの引き合いを増やしたい。
  • 海外現地法人に任せている現地サイトの更新が滞っているため、日本本社で一括して多言語サイトとして運用管理したい。
  • これから海外展開するにあたり、ブランドイメージや製品の強みを伝えるためにグローバルな英語サイトとして制作したい。

はじめからイメージが明確でなくても、例えばこの記事の中で挙げるポイントを考慮することで、少しでも明確になれば幸いです。

大切なのは、サイトを多言語化することで、どういう人たちにどういうメッセージを届けたいかということを具体的にイメージして、そこに近づけていくことだと思います。

それでは、多言語サイト制作を検討する上で重要になるポイントを見ていきましょう。

2. 外国語展開する言語と数を検討する

「どの言語で展開するか」「何ヵ国語で展開するか」というポイントです。多言語展開の基本となるポイントなのですが、意外とこの点が定まっていない場合も見受けられます。

展開言語を検討するためのポイント

まずはどういった言語が展開の候補となるか、下記の3つのポイントを検討してみてください。

言語名だけでなく、仕向地を検討する

展開言語を検討する時には、「〇〇語」という言語名だけでなく「仕向地(しむけち)」を検討してみてください。

仕向地とは対象とする国や地域のことです。言語名だけでは、ターゲットとする国や地域が特定できない場合があるためです。代表的な例が「中国語」に展開したいという場合で、

  • 中国本土向け:簡体字中国語
  • 台湾向け:繁体字中国語

のどちらを仕向地とするかで翻訳する言語が異なります。
(さらに香港向け繁体字という場合も存在します)

同じ言語でも、仕向地によって単語や表現が変わる場合もあります。

例えばスペイン語ではスペイン向けか中南米向けかで違いがありますし、ポルトガル語もポルトガル向けかブラジル向けでは違いがあります。

多言語の翻訳が仕上がってから「仕向地が違う!」ということが判明すると、再翻訳や全面的な見直しという無駄な工程が必要になってしまいますので、事前に確認しておきたいポイントです。

英語に展開するときの仕向地はどう考えるべき?

それでは最もオーソドックスな英語への翻訳の場合はどうでしょうか。英語もアメリカ英語、イギリス英語のように仕向地による違いのある言語です。

当然、対象とする国がアメリカかイギリスのどちらかに決まっていればそれぞれに向けて翻訳すればよいのですが、そうではない場合の仕向地はどう考えればよいでしょうか。

例えば「ヨーロッパ向け」の英語サイトを作りたい場合は、イギリス英語に翻訳するのがよいのでしょうか。「東南アジア地域に英語で発信したい」という場合はどうでしょう。あるいは「全世界を対象としたい」という場合も、とにかくアメリカ英語で翻訳してしまえばよいのでしょうか。

アイ・ディー・エーでは、明確に仕向地が決められない場合は、世界中の誰もが理解できる「世界標準の英語」をご提案しています。

世界標準の英語とは?

私たちが考える世界標準の英語とは、アメリカ英語をベースに、よりシンプルでわかりやすい表現を用いたものを指します。なるべく平易な言葉を使い、長いセンテンスは短くするなどの工夫をして、アメリカ英語からさらにグローバルイングリッシュへと変化させたもの、という位置づけです。

展開言語数を検討するためのポイント

候補となる言語が出揃ったら、実際に展開する言語数を検討します。
何ヵ国語に展開するべきかという点を検討するポイントは大きく2つ考えられます。

ターゲットする人々にアプローチするにはどの言語が有効か

この点は業種や業態、組織ごとの多言語化の目的によって様々です。アイ・ディー・エーによくご相談いただく事例を参考にご紹介します。

インバウンドで定番の4言語は英語・簡体字・繁体字・韓国語

ホテルや観光施設など、訪日外国人観光客(インバウンド)をターゲットにしている場合は、下記の4言語に展開される場合が多いです。

  • 英語
  • 簡体字中国語
  • 繁体字中国語
  • 韓国語

これらの言語は、訪日外国人観光客の上位3か国(中国、韓国、台湾)と、その他全世界向けの英語、という考え方になっています。ここにタイ語が入ってくる場合もあります。

(2023年現在、コロナ禍からインバウンドの復調の動きが明確になってきています。対応言語の傾向は以前と変わらず定番の4言語となっています)

B2B企業に多い翻訳言語

一方、B2B企業のコーポレートサイトの場合は「英語と簡体字中国語」「英語のみ」「英語とロシア語」など、英語を中心に特定の地域向けの展開となることが多いです。企業それぞれの海外向け展開戦略/販売戦略に応じて多言語展開する言語を選択されています。

その他の多言語展開事例

その他、「ベトナムで新事業を立ち上げるので、ベトナム語でそのサイトを制作したい」というように、1言語に絞り込んで展開される場合もありますし、「どの国に需要があるか把握したいので、主要な言語で浅く広く展開したい」という場合もあります。例えば「8言語でランディングページを制作」するような展開方法になります。

展開言語とコストの関係

自由に多言語展開の言語数を増やしていけるとよいのですが、現実的にはコストも考慮する必要があります。

この点は次の項目で詳しく説明します。

3. 翻訳コスト、運用更新コストも考慮する

展開言語が増えると翻訳費用も増える

展開言語数を増やすと、それぞれの言語に翻訳するための翻訳費用も増加することになります。

翻訳費用は文字数単位で算出しますので、テキスト量の多いウェブサイトほど、1言語増やした際の費用増も大きくなります。

数百ページのウェブサイトの多言語対応と、1ページのLPの多言語対応では、言語数を増やすことの影響が大きく異なってきます。

展開言語が多いと運用の手間も多い

言語数が増えるほど運用の手間も増えていく点にも注意が必要です。

例えば新製品のリリースを掲出する場合、日本語だけのウェブサイトでは、原稿となる日本語ページができた時点で公開することができます。日英の2言語で展開する場合は、ここに日本語から英語へ翻訳し、英語ページとして作成するという工程が必要になります。

これが3言語、5言語と展開言語を増やしていくとどうでしょう。日本語だけの場合と比較すると3倍、5倍の手間が必要になってきます。むやみに言語数を増やすと、翻訳と運用のコストがかかりすぎて、結局サイトの更新が滞ってしまうということになりかねません。

アイ・ディー・エーにいただくご相談にもこうした事例は散見されまして、

  • 今後は自社で日本語だけを更新するので、多言語の翻訳とWebサイト更新は任せたい
  • サイトのリニューアルを機に、増やしすぎた言語展開を見直し、その分のコストをサイトの向上にあてたい

というような相談をいただくことも実際に多くあります。

機械翻訳・自動翻訳ツールを使うかどうか

現在では、多言語展開にあたってGoogle翻訳やDeepL、ChatGPTのような機械翻訳が選択肢に入ることも多いかと思います。
無料の機械翻訳ツールであれば、文字数や言語数がどれだけ増えても費用がかからないと思われる方も多いようです。さらに有料の機械翻訳エンジンであれば精度も高く、初期費用やランニングコストはかかったとしてもトータルコスト的にはメリットがあるのではと思われる方も多いかと思います。

私たち翻訳会社でも機械翻訳を活用した取り組みを進めており、様々な機械翻訳エンジンを試し、その特性や限界を踏まえてサービスに活かすことを検討しています。機械翻訳はまさに日進月歩の技術ですので検討も容易ではありませんが、うまく活用すれば展開言語数を増やすことに有効な技術です。ここでは、ウェブサイトの多言語化を考える上で機械翻訳活用のポイントをいくつか挙げてみます。

機械翻訳の実際の精度

「精度90%以上」を謳う機械翻訳エンジンでも、実際のビジネス現場の原稿を翻訳してみると、使える部分は40%くらいだった、ということはよくあります。そのとき、残りの60%の問題のある翻訳をどうするべきでしょうか。

「ノーチェックでそのまま公開する」というのも考え方のひとつですが、誤訳の可能性や、どういう状態になっているか把握せずに公開することはリスクがありますので、できれば「その言語のネイティブが見て問題がないか確認したい」と考えると思います。

プロの翻訳者によるポストエディット

私たち翻訳会社ではそうした対応を「ポストエディット」と呼んでいます。機械翻訳にかけっぱなしで公開するのではなく、プロの翻訳者がチェックし、問題のある部分は適切に編集して仕上げる方法です。最初から翻訳者が翻訳した場合より翻訳品質はやや劣りますが、機械翻訳のウイークポイントを補いつつ品質のバランスを取る方法として近年需要が増えています。

ポストエディットの現場では、機械翻訳エンジンの精度の違いや特性について、日々リアルに体感しています。実際に機械翻訳にかけてみて初めてわかることも多く、事前に用例や用語を登録しておいたり、スタイルガイドを策定するなど、事前の準備をしておくかどうかでポストエディットの効率と仕上がり品質が左右されることがわかってきています。

また、多言語に対応していると謳う翻訳エンジンでも、英語以外の言語は極端に精度が落ちる場合も多く見聞きします。

これは例えば、日本語からタイ語に機械翻訳をかける場合、機械翻訳の内部では日本語→英語→タイ語のように、2段階で翻訳されている場合です。日本語→英語の時点で機械翻訳が誤訳したまま、英語→タイ語に翻訳されてしまうなど、伝言ゲームのようなことが内部的に行われ、全く意図しない翻訳に仕上がることがあります。
機械翻訳を検討する際には、実際に翻訳する原稿を使い、同じエンジンでも言語ごとに別物だと考えて検討したほうがよいと思います。

ポストエディットのコストは機械翻訳エンジンの精度に左右され、求める訳文のレベルによっても異なってきます。機械翻訳の精度が悪い場合は、結果的にはじめから人が翻訳するのとコストが変わらないこともあります。機械翻訳の精度が期待できる状況であれば、概ねゼロから翻訳した場合の70%~80%程度の工数になる場合が多い印象です。

機械翻訳は使いどころが重要

現時点では「サイト全体を自動で機械翻訳」という選択肢は精度の面でまだまだ現実的ではないように思います。機械翻訳を「どこで使うか」という使いどころが重要なポイントで、ここでも大切になるのは、どういう人にどういうメッセージを届けたいか、ということになると思います。

メッセージのポイント 対応ソリューション
その言語のネイティブ話者が読んだときに、違和感なくメッセージが伝わるようにしたい プロの翻訳者による翻訳
機械翻訳っぽさは残るが、ポストエディットにより重大な誤訳を防ぎ、読みやすさを考慮した書き換えを行うなど、コストと品質のバランスをとりたい。 機械翻訳+ポストエディット
翻訳分量が膨大にあり、誤訳や訳抜け等が問題にならない場合(ECサイトのユーザーコメント等) 機械翻訳

ひとつのウェブサイトの中にも様々なコンテンツが存在しますので、どのコンテンツをどう翻訳して多言語展開するか、という検討が重要になります。

4. 多言語展開するコンテンツを精査する

どのコンテンツを多言語展開するか、というポイントです。いきなり完全新規で多言語向けにコンテンツを作るという事例は少なく、多くの場合、既存の日本語コンテンツや資料を抜粋したり組み替えたりして多言語展開することが多いと思います。

「現行の日本語サイトを丸ごと翻訳」して日本語のコピーサイトとすることをイメージされる方も多いのですが、やはり海外向けサイト・多言語サイトに必要となるコンテンツ、そうではないコンテンツがありますので、具体的に検討されることをお勧めしています。

例えばB2B企業のコーポレートサイトを例に、海外展開で不要となりがちなコンテンツ、必要となるコンテンツを参考として挙げてみます。

海外向けウェブサイトで不要となりがちなコンテンツ

海外展開しない製品やサービス

ターゲットとする地域で取り扱いのない製品やサービスをわざわざ多言語で展開する必要性は低いと思います。

ただ、その地域では直接展開していない製品・サービスであっても、その地域のユーザにとってプラスになる情報であれば掲載する意味はあり、実際にそういった構成を取る場合もあります。

採用情報

ターゲットとする地域や言語で採用する予定がない、という場合は不要になるコンテンツです。
一方で、外国語サイトを「現地法人のウェブサイト」として制作する場合は一転して重要なコンテンツになりますので、むしろコンテンツ規模が大きくなる場合もあります。

お問い合わせフォーム

なるべく多くの言語で展開したいが、一方でその問合せ対応を全部の言語で行うことは難しいという場合もあります。
実際にどの言語で問い合わせ対応が可能かを確認し、それ以外の言語では英語の問い合わせフォームに誘導する、という現実的な対応も考えられます。

過去のニュース、国内向けの情報

意外と要望に入っていることが多い項目です。「過去にこういう取り組みを行っていることを周知することも重要」という考え方もありますが、どうしても日本国内向けの情報が多くなるため、あまり費用対効果はよくない印象です。国内向けの広告やキャンペーン情報なども海外向けには省いたほうがよいと思います。

海外向けウェブサイトで必要となるコンテンツ

日本国内向けには存在しない「海外展開に向けた情報」ということになるわけですが、ある意味ここが一番重要と言えると思います。

「どういった情報をどう伝えるか」というウェブサイトの中心となるポイントで、多言語サイトの構成や機能仕様を検討する上でも重要です。この点はサイトの目的や製品/サービスの特性に応じて千差万別なので、しっかりとヒアリングをさせていただいた上でサイト構成・コンテンツを検討し、個々に優先度をつけて進めていくことにしています。

ここでも大切になるのは、サイトの目的とターゲットとなるユーザのことをなるべく具体的にイメージしてを検討することだと思います。

まとめ

サイトの目的と役割、展開言語、翻訳手法、展開するコンテンツが決まれば、ウェブサイトの多言語展開に必要なコアとなるポイントを押さえることができます。

実際にリリースされた多言語サイトがどういう成果をあげているか、その近未来のイメージを具体的に想像してみることもお勧めです。初めから全てを満たすことは難しいかもしれませんが、コアとなるポイントを押さえておけば、段階的に確実にゴールに近づくことができます。

次回は、多言語のウェブサイトを検討する際に考えておきたいサーバインフラについて、を予定しています。

WEBチーム:堤

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ライターWEBチーム:堤

翻訳会社内の多言語ウェブ制作部門に所属。B2Bサイト・インバウンドサイトなど多くの多言語サイトの制作・運営に携わる。