2024年6月にWebアクセシビリティが義務化される?

WEBチーム:堤
2023.05.01 2023.08.09

2022年頃からお客様や同業者から「法律の改正によって一般企業もWebアクセシビリティの対応が義務化されると聞いたが本当?」という話を耳にする機会が増えてきました。障害者差別解消法の改正に伴い、遅くとも2024年6月4日までに対応しないといけない、というものです。

実際には改正法にWebアクセシビリティを義務化するという記述はなく、これまで努力義務だった「合理的配慮の提供」が義務化される、ということでした。この点について調べたことをまとめてみます。

この記事は、このトピックに関してタイムリーかつ的確な情報を発信されている下記のブログ記事を参考にしています。記事によると「Webアクセシビリティの対応が義務化する」という触れ込みは「控えめに言って論理の飛躍がある」とのことで、私もそう思います。

続・障害者差別解消法の改正とWebアクセシビリティ

法律の改正にかかわらず、Webアクセシビリティの取り組みは進めていく

Webアクセシビリティはインターネットを利用するすべての人々にとって重要で、誰もが情報にアクセスしやすいWebサイトにしていくことは、今回の法改正に関わらず積極的に取り組むべき課題です。

そのためにも今回の改正法の具体的な内容を確認しておきたいと思います。

事業者も「合理的な配慮」が法的義務に

2021年6月4日に公布された改正法の新旧対照で下記の変更が確認できます。

【改正前】
事業者は、その事業を行うに当たり…(中略)…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない

【改正後】
事業者は、その事業を行うに当たり、…(中略)…社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない

この部分が「努力義務が法的義務になった」といわれている部分のようです。「合理的な配慮」を提供することが法的に求められる、ということですね。
2023年3月14日に閣議決定された基本方針文書には「合理的配慮の不提供を差別と規定し」という記述があり、全ての事業者にとって大きなポイントだと思います。

「合理的な配慮」とは?

障害者差別解消法に関する「合理的な配慮」について内閣府がリーフレットを作成していたりポータルサイトで具体的な説明を掲載しています。
それによると合理的な配慮は下記のように説明されています。

「合理的配慮」とは、障害のある人から、社会の中にあるバリアを取り除くために何らかの対応を必要としているとの意思が伝えられたときに負担が重すぎない範囲で対応すること

合理的な配慮の具体例として、下記のようなものがあげられています。

障害者から「自筆が難しいので代筆してほしい」と伝えられたとき、代筆に問題がない書類の場合は、障害者の意思を十分に確認しながら代筆する。

他の例をみても、何かの基準を設けてそれを満たす対応を求めるというものではなく、障害による差別を解消するために、障害のある人からの申し出があった際には配慮することを求める、ということのようです。それが今回の法改正で一般事業者にも法的義務となったということで、障害者差別解消法の意義からいっても自然なことかと思います。

Webアクセシビリティは「環境の整備」に含まれる

それではWebアクセシビリティについて、改正法ではどのように扱われているでしょうか。冒頭で紹介したブログでも引用されている基本方針の下記の部分になります。

法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている

Webアクセシビリティは「情報アクセシビリティ」に含まれると考えられ、それらの「環境の整備」は努力義務とされています。

「合理的な配慮」と「環境の整備」の関係は?

同じ基本方針文書の中にある、ウェブサイトを例にした「合理的な配慮」と「環境の整備」の説明がわかりやすいです。

オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)

まず合理的な配慮があり、その後の改善施策として環境の整備を行う、という関係のようです。

「合理的な配慮」が義務化されたことをもって「Webアクセシビリティが義務化された」といってしまうのは、確かに論理の飛躍と言えそうです。

Webアクセシビリティの向上に努めていくことには変わりない

インターネットを利用する全ての人のためにWebアクセシビリティを向上させていくことは重要で、アイ・ディー・エーでも取り組みを進めているところです。

今回の法改正を契機として取り組むサイトが大きく増えていくと思います。Webアクセシビリティを含む「環境の整備」に期限は設定されていませんが、Webサイトのリニューアルや大規模改修などでも積極的にアクセシビリティの対応を進めていきたいと思います。
Webアクセシビリティの具体的な対応については、引き続きこのブログでも発信していく予定です。

Webチーム:堤

ライターWEBチーム:堤

翻訳会社内の多言語ウェブ制作部門に所属。B2Bサイト・インバウンドサイトなど多くの多言語サイトの制作・運営に携わる。