デジタル庁のガイドブックに見る、ウェブアクセシビリティの導入手順
ウェブアクセシビリティの取り組みを具体的に進めていく上で、参考になる手引きやガイドラインがないかと探していて、デジタル庁の「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」が非常に参考になったのでご紹介します。
今後、省庁や自治体、企業のウェブアクセシビリティ導入のガイドとして活用されることを目的に作成されているようで、アイ・ディー・エーでもこのガイドブックを参考に取り組みを進めて行こうと考えています。
目次
3つのパートから成るシンプルな内容
導入ガイドブックのメインの部分は下記の3つのパートで構成されています。各章の内容も整理されていて「検討すべきこと」や「実践の方法」がわかりやすく解説されています。
- 第2章:ウェブアクセシビリティの基礎
- 第3章:ウェブアクセシビリティ達成すべきこと
- 第4章:ウェブアクセシビリティの実践プロセス
「第2章:ウェブアクセシビリティの基礎」では、ウェブアクセシビリティとは何か、恩恵を受けるのはどういった人かといった基本的な部分に加えて、ウェブアクセシビリティの規格について説明されています。
ウェブアクセシビリティはどの規格に対応するべき?
ウェブアクセシビリティの取り組みを進めようとするとき「どの規格・基準に対応すればよいか」がわかりくい点だと思います。「WCAG」や「JIS X 8341-3」などの規格、それぞれの業界団体が定めた基準など、調べるほど多くの候補やバージョンがでてきて混乱してしまいます。
デジタル庁のガイドブックでは主要な規格の説明に加えて、「WCAG」「ISO」「JIS」の下図のバージョンが一致規格であることが示され、JIS規格として取り組むなら「JIS X 8341-3:2016」であることがわかります。
ベースになる「WCAG 2.0」は2008年に勧告されたもので、スマホの存在が考慮されていないなどやや古い規格ですが、ISO規格やJIS規格と一致していること、JIS規格としては2023年時点で最新の規格であることから、ウェブアクセシビリティに取り組む最初の規格として適していると思います。
JIS X 8341-3:2016に対応するための3つのステップ
ガイドブックでは「JIS X 8341-3:2016」への対応に必要なステップを下記の3つで説明しています。
- ウェブアクセシビリティ方針を決める
- ウェブアクセシビリティの試験を行う
- ウェブアクセシビリティの試験結果を公開する
ステップはシンプルですが、特に「試験」の部分はそれなりのボリュームがありそうです。
STEP1: ウェブアクセシビリティ方針を決める
ウェブアクセシビリティ方針には下記の2点を決める必要があります。
対象となる範囲を決める
ウェブサイトのどこを対象にするかという点です。一般的にはドメインやサブドメイン単位で「xxxx.co.jp」のようにそのサイト全体を対象とすることが多いようです。一部のページを対象から外す際には、それらのページを明示する必要があります。
目標とする適合レベルを決める
「JIS X 8341-3:2016」で定義されている適合レベルは「A、AA、AAA」の3種類があります。他国の法律やポリシーでも「AA」に適合することが推奨されているため、一般的には「AA」に適合させることが原則になるようです。
デジタル庁のウェブアクセシビリティ方針も公開されていて、下記のURLで確認することができます。その内容は
- 対象範囲:www.digital.go.jp と form-www.digital.go.jp
- 目標適合レベル:AA
となっていて、2024年3月31日までに達成するという内容になっています。
STEP2: ウェブアクセシビリティの試験を行う
方針が決まったら、JIS X 8341-3:2016の適合レベルに準拠していることを試験で確認していきます。適合レベル「AA」に準拠するためには、下記の達成基準を確認することになります。
- 適合レベル「A」の達成基準25個
- 適合レベル「AA」の達成基準13個
達成基準の中には必ず達成するべきものと、自社サイトでは該当しないため達成基準から除外できるものがあるようです。
達成基準を理解するには時間が必要
例えば最初の達成基準「1.1.1 非テキストコンテンツ」についての解説が下記のページにあります。達成基準の概要や具体的な達成例、達成していない例などかなりの分量の解説になっています。
この内容を理解し、自社のサイトに該当するかどうかを判断し、適合するかどうかを評価する、それを全ての達成項目に対して行うのは、なかなか大変な作業になりそうです。
ガイドラインでも「公開2週間前にテストでは遅い」とされていて、開発時から段階的に試験を行うことが推奨されています。
STEP3: ウェブアクセシビリティの試験結果を公開する
各ページで実施した試験結果から対応度を判定し、その結果を公開します。
すべてのページですべての達成基準に適合していれば JIS X 8341-3:2016 に「準拠」していることになります。どれか 1つでも達成基準に適合していない場合は「一部準拠」となります。
JISX8341-3:2016の対応度には他に「配慮」が存在し、それぞれの違いは下記のように規定されています。
すべて準拠を目標にしなくてもよい
ガイドブックでは『対象とした範囲すべてで「準拠」の結果を得ることは難しいため、目指すべきではありますが必ず達成させることを目的にしないほうがよいです』と説明されています。
「一部準拠」であったとしても、問題箇所の把握と解決策の検討がなされれば大きな意義があると説明されていて、確かにその通りだと思います。
実際にデジタル庁が公表している試験結果では、満たしている適合レベルが「Aに一部準拠」となっています。ウェブアクセシビリティ方針で「AAに準拠」を目標としていても、実際にはすべて準拠できているわけではない、ということですね。準拠していない部分は「現時点で認識している課題」として公表されています。こうして継続的な対応を続けていくことが重要なのだと思います。
デジタル庁の試験結果は下記から確認できます。「達成基準チェックリスト」の体裁など、非常に参考になると思います。
まとめ
デジタル庁の「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」から、導入手順を紹介しました。対象とする規格が明確になれば、導入ステップはそれほど複雑ではないことがわかります。ただ、ウェブアクセシビリティの試験で規格との適合をチェックする部分は、達成基準の理解も含めてかなりの作業になるように思います。
導入ガイドブックでは今回紹介した内容以外にも有用な情報が掲載されており、「第2章:ウェブアクセシビリティの基礎」はウェブアクセシビリティに取り組む人に必読の内容になっていますし、「第3章:ウェブアクセシビリティで達成すべきこと」では、JIS X 8341-3:2016 で必ず達成しないといけない「非干渉の達成基準」などについて説明されています。
ウェブアクセシビリティの取り組みを進めつつ、これらの点の理解を深めて、このブログで共有できればと思います。
WEBチーム:堤
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