日本語と英語の丁寧語に対する認識の違い

2020.11.11 2023.06.29

英語には日本語のような「敬語」「丁寧語」は明確には存在しない、といわれますが、「丁寧な表現」はビジネスシーンなどでは一般的に使用されています。けれど、日本語のニュアンスをそのまま英語に翻訳してしまうと、習慣の違いでちょっとした行き違いが生じる場合も!? 今回は”please”について考えてみました。

「お願い」にすべてpleaseをつけて翻訳すると・・・

翻訳業務に携わっているなかで、以前こんなことがありました。あるメーカーが作成された取扱説明書の英語翻訳版の改訂を依頼され、元原稿をチェックしていると、“Please press the button.” や、”Please connect the device.“といったフレーズがびっしりと並んでいたのです。よく見てみると、元の日本語の文章で、「ボタンを押してください」「〜に接続してください」というような「〜(して)ください」に該当する部分に、すべて”please”を付けて英語翻訳されていました。その後、当社で適切な文章に修正するために、大変な時間がかかってしまったのですが、「なぜ、修正が必要なの?」と思われた方も中にはいらっしゃるかもしれません。

日本語では、相手に何かをお願いする時、「〜してください」というフレーズは頻繁に使います。たしかに丁寧な言葉ですが、私たち自身はそれほど丁寧語と意識せずに、決り文句として当たり前のように文章に組み込んでいます。ところがそれを英語に翻訳すると、少々冗長な、まわりくどいような表現になってしまうことが多々あり、敬遠されます。

極端なへりくだりは、相手に不快感を与える!?

翻訳したい日本語の文章が「〜してください」で締めくくられていると、英語でも同じ意味に当たる”please”を付けなければならない、というような認識があるかもしれません。話し言葉や書き言葉など、シチュエーションによって違いはありますが、取扱説明書やマニュアルを英語に翻訳する場合には、よほどのことがない限り使用しません。よほどのこと、というのはお客様に対して確実に不便を強いるような場合です。たとえば、製品などに故障が生じて、カスタマーセンターに連絡をしてもらう必要がある時など、”Please call the Support Center.“というような表現を用いたりします。

社内の外国人スタッフの話を聞いてみると、マニュアルに書かれている内容というのは、取り扱い方法などの手順を説明しているもので、そこに回りくどく「〜してください」と何度もお願いするような形は不自然だ、という意見がありました。日常会話の中でも”please”を多用することは、あまり歓迎されない、といいます。丁寧になると思って何度も”Please”を付けていると、子どもに説明しているような言い回しになってしまい、大人に対しては慇懃無礼に当たるシチュエーションになることもあるようです。

学校で習った英語の命令形は、実は命令口調ではない!?

取扱説明書やマニュアルのなかで、”please”を使わずに英語翻訳をしようとすると、“Press the button”
(ボタンを押せ)、”Check the manual”(マニュアルを確認しろ)のような直接的な文章になります。私たちが学校で習ってきた英語では、このような文型は命令形だと教えられることが少なくないと思います。このままでは失礼な表現なのではないかと思い、つい”please”を入れたくなってしまうのですが、ネイティブの英語では、“Press the button”のような文型は、命令形とは捉えない、と、社内の外国人スタッフは話します。

日本語には、命令形と丁寧語の間には、幾通りもの表現や段階がありますが、英語にはワンステップ、ツーステップで十分丁寧な言葉になるので、1フレーズ “please”を付けるだけで、印象がグッと変わり、場合によっては不自然になってしまうのです。さらに、この言葉を使う時には、相手に何度も同じことを言っているのに、全く聞き入れてもらえない場合に、「頼むから話を聞いてくださいよ」というような、相手を諭すようなニュアンスも含まれることがあるので、ネイティブは頻繁には使わない、というのもなるほど、と思いました。

英語に敬語はないけれど、丁寧な表現は必要

日頃、”please”を多用すると、かえって失礼に当たる、ということもあるのですが、相手を気遣うようなフレーズを全く使わないというわけではありません。日本語のように、敬語や丁寧語のような特別な言葉はあまりありませんが、相手との関係性や場合によっては会話にワンクッションを置き、やわらかい表現をすることもあります。たとえば、”If it isn’t too much trouble, would you mind signing these documents?( お手すきの際に書類にサインをいただけますでしょうか。) ” ” If you have time later, could you help me with this?(時間がある時に手伝ってもらえませんか? ”のような表現があります。

たしかに、敬語や丁寧語という言葉のカテゴリーは英語には明確なものはありませんが、1フレーズ、2フレーズ追加する、または日本の英語教育的に表現するなら「過去形を使う」などして、丁寧な言い回しに変えることができ、それがいわゆる英語の丁寧語と定義できるのではないかと考えています。