観光庁の多言語対応ガイドラインにみる固有名詞の表記方法10のポイント

WEBチーム:堤
2016.04.16 2023.09.24

インバウンド(訪日外国人観光客)や2020年オリンピックを見据えて多言語に関連した公的なガイドラインが整備されつつあり、お客様から「翻訳は観光庁のガイドラインに沿ってください」という要望をいただくことも増えてきています。

それらのガイドラインにはどういった内容が記載されているのでしょうか?

観光庁のガイドラインでは多言語対応の対象となる情報の「種類」や「重要度」、「対応時期」など多くの項目について記載されています。この記事では「固有名詞の表記方法」に焦点を絞り、10個のポイントにまとめて紹介します。

アイ・ディー・エーへのご相談・お見積り依頼は下記のリンクから承っています。
多言語翻訳・多言語サイト制作のご相談・お見積り依頼フォームへ

参照したガイドライン

この記事で参照しているガイドラインは下記の2つです。

観光庁 「観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」(2014年)

国土地理院 「外国人にわかりやすい地図表現検討会」(2016年)

どちらのガイドラインも 基本は日英の併記、必要性が高い場合は英語以外にも対応 というスタンスなので(多言語といっても)英語表記に関する説明が大半です。この記事でも英語表記を例にして記載します。

ポイント01: 施設などの正式表記が決まっている場合はその表記を優先する

ガイドラインには固有名詞や普通名詞の表記方法について多くのポイントが記載されているのですが、施設等の管理者が外国語表記をすでに規定している場合は、その表記をガイドラインより優先するべきとなっています。当然といえば当然ですね。

表記例
日本語 英語表記 備考
東京大学 The University of Tokyo (Tokyo Universityではない)
帝国ホテル Imperial Hotel (Teikoku Hotelではない)
国立科学博物館 National Museum of Nature and Science

ポイント02: 「固有名詞のみ」と「普通名詞を含む固有名詞」を分けて考える

ガイドラインでは固有名詞を2つにわけて説明しています。

  1. 人名や地名、施設名といったいわゆる「固有名詞」
    例)日比谷 → Hibiya
  2. 「○○山」「○○川」「○○公園」「○○寺」といった「固有名詞+普通名詞」になっている固有名詞
    例)日比谷公園 → 日比谷+公園 → Hibiya Park

ポイント03: 固有名詞のみの場合

固有名詞のみの単語の表記はあまり悩むことはありません。日本語由来の単語はローマ字表記、外国由来の人名や地名は言語部分を英語表記になります。

ローマ字は必ずヘボン式表記となっています。なお、ヘボン式に存在しない特殊音の表記は「自由とする」となっています。長音やはねる音、つまる音についての細かい点の記載もありますので気になる人はガイドラインを参照してください。

表記例
日本語 英語表記 備考
東京 Tokyo (日本語由来)
西新宿 Nishi-Shinjuku (日本語由来)
リンカーン Lincoln (外国由来)
南アルプス Minami-Alps (日本語由来+外国由来)

ポイント04: 「固有名詞+普通名詞」の場合

多言語表記で問題になるのはこれら「固有名詞+普通名詞」の方だと思います。ガイドラインでも多くの例を挙げてこれらを説明しています。

基本的には「○○公園」→「○○ Park」、「○○川」→「○○ River」などのように、固有名詞部分をローマ字表記、普通名詞部分を英語表記にします。名詞の頭文字は大文字にします。

表記例
日本語 英語表記 備考
日比谷公園 Hibiya Park
富士山 Mt. Fuji
石狩川 Ishikari River
琵琶湖 Lake Biwa
東京湾 Tokyo Bay
横浜港 Yokohama Port
勝鬨橋 Kachidoki Bridge
熊本城 Kumamoto Castle

ポイント05: 固有名詞と普通名詞を分けられない場合

ただし、固有名詞と普通名詞を分けることで意味が通じなくなってしまう場合はこの限りではありません。富士山が Mt. Fuji だからといって、立山を Mt. Tate としてしまうと、意味が通じなくなってしまいます。

ガイドラインでは、意味が通じなくなる場合は普通名詞部分も含めて全体をローマ字表記し、そこに英語表記を付け足す旨が記載されています。要は、単語全部をローマ字表記にして、そこに必要な英語を付け足せばOKです。

表記例
日本語 英語表記 備考
月山 Mt. Gassan (Mt. Gatsuではない)
立山 Mt. Tateyama (Mt. Tateではない)
荒川 Arakawa River (Ara Riverではない)
芦ノ湖 Lake Ashinoko (Lake Ashinoではない)
大阪南港 Osaka Nanko Port (Osaka Nan Portではない)
渡月橋 Togetsu-kyo Bridge (Togetsu Bridgeではない)
二条城 Nijo-jo Castle (Nijo Castleではない)
東大寺 Todaiji Temple (Todai Templeではない。後述)
清水寺 Kiyomizu-dera Temple (Kiyomizu Templeではない。後述)
平等院 Byodoin Temple (Byodo Templeではない。後述)
下賀茂神社 Shimogamo-jinja Shrine (Shimogamo Shrineではない。後述)
平安神宮 Heian-jingu Shrine (Heian Shrineではない。後述)
北野天満宮 Kitano-tenmangu Shrine (Kitano Shrineではない。後述)
伏見稲荷大社 Fushimi-Inari Taisha Shrine (Fushimi-Inari Shrineではない。後述)

意味が通じる / 通じなくなる、の判断が微妙なところですが、「琵琶湖 → Lake Biwa」、「荒川」→「Arakawa River」あたりに境界線があるような気がします。

ところで、神社仏閣の英語表記、少しひっかかりませんか?
東大寺が「Todaiji Temple」なのはともかく、清水寺は「Kiyomizu Temple」でもいいのではないか、という気もします。
実は、ガイドラインでは神社仏閣について特別なポイントが記載されています。

ポイント06: 神社仏閣の場合

神社仏閣の場合は、普通名詞と固有名詞に分けられる場合でも分けずに、すべてポイント05と同じ表記(全部ローマ字+英語)にします。

これは、寺や寺院を表す英語に対応する日本語が複数存在するため、Byodo Temple とした場合に「平等院」なのか「平等寺」なのか判別できなくなる ことを考えてのことです。

日本語 英語表記 備考
平等院 Byodoin Temple (Byodo Templeではない)
平等寺 Byodoji Temple (Byodo Templeではない)

ポイント07: 施設名や駅名の補足

施設名や駅名など日本語での表音表記が確立していて、ローマ字で表記しても外国人に不都合がないと思われる場合は、ローマ字表記+カッコ付きで英訳を表記します。カッコ付きの英訳はなくても不都合はないはずですが、「哲学の道」の例など、意味も分かった方がより親切ですね。

表記例
日本語 英語表記 備考
国会議事堂前 Kokkai-Gijidomae (National Diet Bldg.)
哲学の道 Tetsugaku-no-Michi (Path of Philosophy)

カッコで括る場合は、カッコの前後に半角スペースを入れてください(文末にくる場合は前のみでOK)。

ポイント08: 視認性やスペースの都合で略語を使うのは自由

視認性やスペースの観点から適当な場合は略語を使うことができる、という記載もあります。略語を使うかどうかは、ケースバイケースで判断してよいようです。どう表記すれば読みやすいかを考慮して表記することが重要だと。

  • Station ⇒ Sta.
  • Building ⇒ Bldg.

ポイント09: 発音のしやすさ等を考慮して名詞をハイフンで分けることができる

複数の名詞等で構成される固有名詞や、oが重なる場合など、発音の区切り等を明確にするためにハイフンで区切って表記することも可能です。
「こういう場合はハイフンで区切ること」という明確な規定はされていません。どう表記すれば発音しやすいか、を考えて表記すると。

表記例
日本語 英語表記 備考
西新宿 Nishi-Shinjuku
広尾 Hiro-o
南アルプス Minami-Alps
二条城 Nijo-jo Castle
渡月橋 Togetsu-kyo Bridge
清水寺 Kiyomizu-dera Temple
下賀茂神社 Shimogamo-jinja Shrine
平安神宮 Heian-jingu Shrine
北野天満宮 Kitano-tenmangu Shrine
伏見稲荷大社 Fushimi-Inari Taisha Shrine
国会議事堂前 Kokkai-Gijidomae (National Diet Bldg.)
哲学の道 Tetsugaku-no-Michi (Path of Philosophy)

ポイント10: 普通名詞の場合

ちなみに(固有名詞ではなく)普通名詞の場合も、ローマ字で表記したときに外国人に通じるかどうかで表記を使い分けます。

日本語の表音が外国人にも認識可能な普通名詞→ローマ字で表記

「フジヤマ」「スシ」あたりはそのままローマ字で表記しても外国人に伝わるでしょう、と。温泉ももう通じると考えてよさそうですね。

表記例
日本語 英語表記 備考
寿司 Sushi
Samurai
温泉 Onsen

日本語の表音が外国人に認識されない可能性がある普通名詞→英訳もカッコ付きで表記

「茶碗」や「暖簾」などは、そのままでは何のことか外国人には分からない可能性が高いので、そういう場合は英語訳をカッコつきで併記すると親切です。ガイドラインには「日本文化を正しく理解するために日本語の読み方を伝えることが必要である場合」も同じようにローマ字+英語表記を推奨しています。せっかく日本に来てもらったんだから、新しい単語も覚えてもらえるとうれしいですね。

表記例
日本語 英語表記 備考
茶碗 Chawan (Tea bowl)
暖簾 Noren (Traditional shop curtain)

まとめ: 大切なのはホスピタリティ

ガイドラインには具体的な例や細かいルールもあるのですが、こうしてまとめてみると「意味が通じるか」「発音しやすいか」「補足の英訳があったほうが分かりやすいか」「視認性は」など、多言語表記を頼りに旅行する外国人にとって「どう表記されていればわかりやすいか」という視点がベースにあるように思います。

観光庁のガイドラインの冒頭には「日本に来てよかったと満足してお帰りいただき、またリピーターとしておいでいただくことが大切」と書かれています。結局大切なのはそこなんですね。

観光庁の多言語対応ガイドラインにみる固有名詞の表記方法10のポイント

WEBチーム:堤

アイ・ディー・エーへのご相談はこちらから

多言語翻訳・多言語サイト制作のご相談・お見積りフォームへ

ライターWEBチーム:堤

翻訳会社内のWeb制作部門で、年間20〜30の多言語サイトの制作・運営に携わる。