更新日:2023年4月18日
公開日:2019年6月25日

先日(2019年4月)、観光庁によって全国の公共交通機関を対象に「多言語表記」の調査が行われました※1。アイ・ディー・エーでも多言語サイネージなどインバウンド案件を手がけることが多いため、興味深くレポートを見ていました。するとそこには聞きなれない「情報の連続性」という言葉が。今回はインバウンド対応における「情報の連続性」とは何か、一体どういう状態を指すのか、成功事例も交えて取り上げてみたいと思います。

全国の主要観光ルートを外国人の視点で一斉調査

2019年4月、観光庁によって全国の鉄道・バス事業者85社を対象に、「公共交通機関における多言語表記」の調査が行われ、複数交通機関の乗り継ぎ分岐点での多言語表記の現状が明らかになりました。

観光庁の調査では、複数の交通機関を乗り継ぐ80の観光ルートを移動して、「外国人目線」で問題なく目的地にたどり着けるかを確認しています。

調査対象は英語、簡体字、繁体字、韓国語の4言語。下の図を見ると、英語はほぼ日本語の案内と同レベルで提供されているように見えます。であれば、英語さえ分かれば日本人と同じように不自由なく観光ルートを巡ることができるんじゃないか?と思ってしまいます。

言語別・分岐点における案内の有無

施設管理者により、表記のゆれが見られる事例

出典:公共交通機関における多言語表記の現状が明らかになりました
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000275.html

しかし、そうではありません。

そこで出てくるのが「情報の連続性」という考え方です。

情報の連続性とは

たとえば、あなたが外国人旅行者だとして、空港から「JR新宿駅」の最寄りのホテルに向かうとします。
新宿に向かう道中の鉄道やバスの案内表示では乗り継ぐべき路線名や駅名が適切に英語で表記されていて、多言語対応の券売機等も利用でき、特に不自由なく「JR Shinjuku Station」までたどり着くことができました。
あたりまえのことのようですが、これが「情報の連続性」が保たれている状態です。

表記揺らぎで「情報の連続性」が失われている例

ところが、行き届いているように見える英語の案内でも、情報の連続性が損なわれているケースがよくあるというのです。

先ほどの外国人観光客の目指すホテルがJR新宿駅の「新南出口」だった場合、おそらく彼らは新宿駅の中で迷ってしまうことになります。

表記の揺らぎや誤訳によって、同じ場所を示すはずの表記が異なっている場合があるのです。JR新宿駅の「新南出口」には、下記のような表記が確認されています。※2

  • New South Exit
  • Shin South Gate
  • Shin-Minami Entrance

施設管理者により、表記のゆれが見られる事例

施設管理者により、表記のゆれが見られる事例

出典:多言語対応協議会 交通分科会 多言語対応 取組方針 【概要版】
http://www.2020games.metro.tokyo.jp/multilingual/council/pdf/gaiyo_kotsu.pdf

外国語の表記を頼りにしている外国人旅行者にとって、こうした微妙な表記の違いによって情報の連続性が断たれ、どこに向かえばよいのか迷ってしまうことになります。

なお、2019年6月現在、JR東日本のサイトでは「新南出口」ではなく「新南改札」「New South Gate」で統一されています。※3

ちなみに、固有名詞表記の傾向としては、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、意味を推測しにくいローマ字表記から、意味を重視した英語表記に変えていこうという流れになっています。※4

「外国人旅行客が道を訊くときに日本語の表音のどおりの方がよいのでは」という考え方もありますが、今後は意味を重視した表記が増えていくことになりそうです。

Kokkaimaeの表記の上に修正のシールが貼られている

Kokkaimaeの表記の上に修正のシールが貼られている

出典:「Kokkai」やめます 国会周辺の標識、英語表記に
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2002U_Q3A820C1CC1000/

情報の欠如により「情報の連続性」が失われている例

また、電車やバスに乗り継ごうとすると、交通の分岐点で、乗り継ぎに必要な情報が提供されていないということもあります。バス、路面電車の乗車方法(どのドアから乗車するのか、整理券をとる必要があるのかなど)や運賃が分からない、鉄道の改札を出ずに乗りかえる場合、乗るべき路線や列車種別(特急、普通など)が分からないなどの例があります。

視認性の低さや案内の間隔が問題となる例も

日本語の案内にはほとんど英語が併記されていますが、英語表記にすると文字数が2倍以上になることもあります。そのためどうしても細かい字になってしまい、書いてあっても読みにくいことが課題として報告されています。

また、案内表示を設置する間隔が100mなど、広すぎることで案内表示を見つけられず、道を間違えたのではと思って引き返してしまうケースもあるようです。

こういうストレスは想像できますよね。私自身も、急いでいるのに途中で案内表示を見失い、不安になって、このまま行くべきか戻るべきか考えながら、案内表示を必死に探したことが何度もあります。

「情報の連続性」を保つために

この記事で紹介した課題に対しては、下記のような取り組みが有効です。

■ガイドラインの策定と遵守

観光庁は、策定したガイドライン※6のもと、事業者間を越えた連携をするように促しています。また、観光庁は今回の調査結果について、事業者に個別に連絡すると言っています。国が率先して事業者の間に立って調整をしてくれるなら、報告されたような表記揺らぎも早い段階で解決するでしょう。

事業者間を越えて参照できるガイドラインを国が主導して作っている意義は大きいですが、ガイドラインを策定してもなかなか守られないという問題はどんなプロジェクトでもあることです。各主体がプロジェクトに取りかかる前に、参照すべきガイドラインがないか確認することが大切です。

■乗り継ぎの分岐点では多言語表示を充実させる

日本語の案内には英語が併記されていることがほとんどなので、外国人が特に迷いやすい分岐点では簡体字・繁体字・韓国語での説明を増やしましょう。

■ピクトグラムや写真などで分かりやすく

複数言語を表記しようとすると、どうしても文字は小さくなりがちです。案内表示の視認性を高めるために、遠いところからでも視覚判別できるピクトグラムを積極的に活用しましょう。

また、分岐点の案内に観光地の写真を掲載した事例も先進的な取り組みとして紹介されています。これなら、たとえ手元のガイドブックと表記が違っても、写真を見れば正しいルートなんだと確信が持てて、安心して旅をつづけられます。

<福岡市交通局・博多駅>
ピクトグラムの使用により、遠くからでも新幹線の案内であることが分かる。

出典:「公共交通機関における多言語表記」調査結果概要より引用
http://www.mlit.go.jp/common/001284231.pdf

<JR東日本・高崎駅>
吊り下げ型の案内標識に加え、床面にも案内がある。主要な観光地である富岡製糸場の写真と英語での案内が記載されている。

出典:「公共交通機関における多言語表記」調査結果概要より引用
http://www.mlit.go.jp/common/001284231.pdf

まとめ:全体を見渡して設計しよう

公共交通機関に限らず、訪日外国人観光客向けにサービスを考える場合は、外国人の目線で「情報の連続性」が保たれているかどうかも重要なポイントになります。

インバウンド対応の多言語媒体の制作には、表記の揺らぎや情報の過不足に注意することはもちろん、ガイドラインへの準拠が求められます。何より、実際に外国人旅行者がその情報を利用するシーン等についてユーザーの目線に立って考えることが、「おもてなし」のクオリティにつながるのでは、と考えています。

「公共交通機関の多言語表記」調査では、交通機関の利用にあたって外国人に閲覧されるホームページについても調査しています。外国人ユーザーを意識したホームページの設計や、情報の取捨選択については別の記事でご紹介したいと思います。

このブログで参照した情報

WEBチーム:高道

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