「歴史」と「AI」のあいだで考えた、翻訳のこれまでとこれから – JTF翻訳祭2025参加レポート

2025年11月5日(水)、アイ・ディー・エー株式会社は、国内最大級の翻訳・通訳イベント「第34回JTF翻訳祭2025」に、実行委員として参加しました。
日本翻訳連盟(JTF)が主催するこのイベントは年に一度、翻訳者や通訳者、翻訳会社、ツールベンダー、研究者など様々なフィールドの方々が一堂に集まる貴重な機会です。今年も31の多様なセミナーが催され大盛況となりました。
会場は日本近代化のスタート地点ともいえる横浜の「横浜市開港記念会館」。重要文化財でもある建物に入ると、どこかタイムスリップしたような感覚になりました。

この歴史ある会場で、異文化の架け橋である「翻訳・通訳」について意見を交わせる機会はとても有意義でした。とくに「これまで積み重ねてきたこと」と「新しい時代に求められる価値のつくり方」を改めて考えるきっかけになりました。
私たちが翻訳サービスを提供する上で大切にしている「芯」は、クライアントにとって「より良い成果」につながる翻訳をつくり続けることです。その姿勢は、時代が大きく変わる今だからこそ、より強く問われていると感じます。
アイ・ディー・エーが毎年参加する理由
私たちは10年以上、毎年翻訳祭に参加しています。2020年からは、実行委員としてイベント運営にも携わってきました。
プログラムを発案したり、登壇者やスポンサーの方々と打ち合わせを重ねたりと、実行委員の仕事は多岐にわたり、正直なところ大変な面もあります。それでも参加し続ける理由は、「翻訳・通訳業界の一員であることを体感できる貴重な場」だと感じているからです。
つながりと積み重ねを大切にしたい
翻訳会社の仕事は、オンラインでのやり取りが中心です。社内でも静かにパソコンと向き合う時間が長く、同業他社の仕事ぶりを知る機会もほとんどありません。
だからこそ、リアルな場で皆さんの熱量を感じると、「この業界を一緒につくっていく仲間」という実感がひしひしと湧いてきます。
AI翻訳の時代に、人間の果たす役割とは?
多様なプログラムの中で私たちが特に注目したのは、近年発展が著しいAI技術です。
翻訳の現場にいる私たちにとって、「AI前提の時代に、翻訳はどう変わるのか」という問いは避けて通れません。翻訳に関心のある企業の皆さまにとっても、注目度の高いトピックではないでしょうか。
- 文法的なミスをほとんどしない
- テキストを一瞬で生成できる
という特長を持つAIの出現によって、翻訳者の役割は従来の「ゼロから訳す」から「より品質を高める」へと変わりつつあります。
かつてあったような「AIは人間の仕事を奪うのではないか」という警戒感は薄れつつあり、代わりに「AIが日常的に使われる時代に、人はどう判断し、どう価値を出していくのか」という視点が中心になりつつあるように思います。
私たち翻訳会社にとっては、AIの得意な部分と人が担うべき部分を適切に切り分け、最適なワークフローを設計することが重要になります。
提供できる価値は手探り
AI翻訳が当たり前の時代に、人間が担うべき役割とは何でしょうか。
- 文脈を読み取る
- 書き手の意図をくみ取る
- 読み手に「伝わる」形に整える
こういった点は、未だ人の持つスキルが重要な領域だと考えます。
ただ、それをどのような価値として提供していくかというと、簡単な話ではありません。
AIが急速に進化する中で、「自分たちの仕事はどう変わっていくんだろう?」という、先の見えない戸惑いや葛藤を抱えながら模索している参加者が多かったように思います。
と同時に、最新技術を活用して新たな価値を生み出そうとする気運も高まってきています。
歴史の講演が示したヒント
来場者から高い関心・評価を得ていて印象深かったのは、幕末の通詞(つうじ。通訳の原型)をテーマにした講演でした。
漫画『とつくにとうか』の作者である川合円氏をお招きし、横浜開港にも関わった通詞・森山栄之助を中心に 「ことばの力」 について語っていただきました。
当時の通詞とは、命をかけて文化と文化をつなぐ「橋渡し役」でした。彼らがいなければ国をまたいだ対話は成立せず、歴史もまた違ったものになっていたかもしれません。
通詞(つうじ)にみる翻訳の本質
最新のAI技術がトレンドの中、なぜこういったテーマが好評だったのか。
一つの理由として、「翻訳の本質は、人が人へ思いを伝えること」という、時代を超えて変わらない原点を思い出させてくれたからではないでしょうか。
AIは便利で強力なツール。ですが、どの技術をどう使うかを選び、何を大切にするかを決めるのは、いつの時代も「人」です。私たちも最新の技術情報にアンテナを張り、使いこなすための研究に日々取り組んでいます。
横浜という舞台で、最新技術について考え、歴史からヒントを得る。その構図自体が、翻訳の未来と過去をつなぐ象徴のように感じられました。
会社ごとの個性と人のつながり
出展ブースや交流会では、翻訳者や企業担当者の方々 と直接お話しすることができました。リモート中心の業界では、 こうして顔を合わせることで得られる気づきがたくさんあります。
- 翻訳支援ツール(CATツール)の使い方が会社によって異なる
- 会社ごとのやり方を知ることで、ワークフローの選択肢が増える
- 翻訳者・校正者さんの顔が見えると、コミュニケーションが取りやすくなる
自分たちの強みや改善点に気付くきっかけにもなりますし、翻訳は人と人とのつながりの上で成り立つ仕事なのだと改めて感じる時間でした。

迷いのある時代だからこそ、いいものをつくりたい
こうして業界全体の変化や他社の取り組みに触れることで、私たちが提供していく価値を改めて問い直す機会になりました。
答えのない時代だからこそ、大切にしたい芯は変わりません。
一つは、「伝わる翻訳へのこだわり」です。品質に対する誠実さや、人とのつながりを大切にする姿勢は、これからもアイ・ディー・エーが守りたい価値です。
もう一つは、やはり「より良い成果を生み出したい」ということです。
これは翻訳・通訳業界の方々はもちろん、翻訳に関心のある企業の皆さまにも共通する思いではないでしょうか。
これからも「伝わる翻訳」で皆さまの「これから」を一緒につくっていくことができれば嬉しく思います。
翻訳のご相談やご依頼は、どうぞお気軽に。
ちなみに、翻訳祭はどなたでも参加できます。色々な会社を一度に知ることができるので、翻訳に興味のある企業の皆さまや学生の方たちにもぜひ参加いただきたいと思っています。ご興味のある方はアイ・ディー・エーまでお声がけください。来年の翻訳祭でお会いしましょう!
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